2017年度 動物遺伝育種学 試験問題 解答例

【1】ネコにおいて遺伝子がBBのものは毛が黒で、Bbは三毛猫で、bbは黄色になる。この遺伝子はX染色体上にあることが知られている。三毛の雌と黒色の雄を交配すると、どのような色のネコがどのような割合で生まれてくるか説明しなさい。(10点)

  三毛猫の雌はXB Xb であり、雄の黒猫はXB Y であるので、子猫はXB XB(黒猫 雌)、Xb XB(三毛猫 雌)、XB Y(黒猫 雄)、Xb Y(黄猫 雄)が1:1:1:1で生まれることになる。

【2】マイクロサテライトとはどのようなものか、また、どのように利用されるのかについて詳しく説明しなさい。(10点)

 マイクロサテライトは2-4塩基の繰り返し配列で、脊椎動物のゲノム全体に豊富に存在しているので、ゲノム全体に対する連鎖解析をするのに適している。マイクロサテライトは多型性が高いので、連鎖解析や親子鑑定において使用可能なマーカー数が多く確保できるとともに、情報量も多くなる。また、自動シーケンサーを用いたハイスループットなジェノタイピングが可能である。

【3】PCR法を実行するにあたっての注意点について詳しく説明しなさい。(10点)

  PCR法ではわずかのDNAが混入してもPCR産物が生じることがあるので、クロスコンタミネーションなどに十分、注意を払わなければいけない。また、テンプレートDNAの純度が低いと非特異的な増幅が生じたり、PCR反応が阻害される場合がある。プライマーダイマーや非特異的な増幅産物が生じた場合には、アニーリング温度を上げたり、プライマーを再設計する必要がある。

【4】人為選抜において選抜限界が生じる原因について詳しく説明しなさい。(10点)

選抜限界が生じる原因として考えられるのは、1.各遺伝子座において遺伝子が固定された、2.体が大きくなりすぎて繁殖が困難になるなど、自然淘汰と人為選抜が拮抗している、3.選抜形質間で負の遺伝相関がある、4、免疫関係遺伝子のホモ化により、抗病性や育成率が低下している、などである。

【5】表現型レベルではダーウインの自然選択説が、分子レベルでは木村の中立説が正しいように見えるが、この矛盾の原因について詳しく考察しなさい。(10点)

 分子レベルでは木村の中立説が提唱するように遺伝変異の圧倒的多数は個体の生存に中立な変異であるが、非常にわずかの割合だが個体の生存を高める遺伝変異が生ずることがある。その少数の遺伝変異が、大きな表現型の変化をもたらすことがあり、ダーウインの自然選択説が正しいように見えるのである。また、遺伝子重複によって、機能的制約がかからない新規遺伝子が誕生すれば、その新規遺伝子については、個体の生存を高める方向へ進化する確率が通常よりは高まる。

【6】遺伝率について詳しく説明しなさい。(10点)

 遺伝分散を表型分散で割ったものが広義の遺伝率で、相加的遺伝分散を表型分散で割ったものが狭義の遺伝率である。遺伝率の高い形質ほど選抜育種の効率が高くなる。遺伝率の比較的高い形質は肉質や発育、乳量などであり、受胎率、産仔数などの繁殖形質や抗病性、育成率などの形質は遺伝率が低い。形質の測定誤差を抑えることで、遺伝率を上げて、選抜の効率を高めることができる。

【7】わが国における乳牛育種と肉牛育種の相違点について詳しく説明しなさい。(10点)

  日本の乳牛ではホルスタイン種が圧倒的なシェアを持っており、わが国ではホルスタインに種について全国一律の現場後代検定による育種改良を行っている。能力検定成績の収集には牛群検定を利用し、ホルスタイン登録協会が収集した血統記録とともに(独)家畜改良センターにおいて各形質の育種価推定値が算出されている。種雄牛の作出・導入については各種法人を含む民間が行っている。また、日本としてインターブルが主催する国際評価に参加している。

  一方、日本の肉牛では黒毛和種が大きなシェアを持っているが産地間競争が激しく、基本的に産地の各道府県が個別に直接検定と現場後代検定にもとづく育種改良を行っている。検定方式は和牛登録協会によって統一されているが、産地を越えて優秀な種雄牛が使用されることは稀であり、育種規模が小さく近交退化の危険性をはらんでいる。

【8】(  )の中に正しい用語を書き入れなさい。(20点)

 1)染色体DNAはmRNAに(転写)され、核外に移行し、たんぱく質に(翻訳)される。

2)2本鎖DNAの特定の塩基配列を認識してDNAを切断する酵素のことを(制限酵素)と呼ぶ。

 3)DNAクローニング法よりも簡便に特定のDNA断片を増幅する方法として PCR法がある。増やしたいDNA断片の両側に(プライマー)を設定し、 その2つの(プライマー)ではさまれた部分のDNA断片をサーマルサイクラーという機械を用いて増幅する。

4)遺伝疾患個体の両親が近親婚である場合や大多数の疾患個体の両親が正常である場合などは(常染色体劣勢遺伝)が疑われる。

5)交叉は染色体上で近いほど頻度が少なく、遠くなるほど頻度が高くなることが知られている。この現象を利用して遺伝子座の地図を作ることができる。この地図を(遺伝連鎖地図)と呼ぶ。

 6)同一の分子種においては、(サイトあたりのアミノ酸置換数)は2つの生物間での進化上での分岐から現在までの時間と比例することが、多くの分子種において確かめられている。

 7)遺伝子をコードする塩基配列に欠失や挿入などが起こって、遺伝子としての機能を失ったものを(偽遺伝子)と呼ぶ。 

8)雌雄同数で集団の大きさが世代ごとに変化しない理想的な集団に換算した場合の集団の大きさを(集団の有効な大きさ)と呼ぶ。

9)(近交係数)とは、1つの個体の2つの相同遺伝子が共通祖先の同一遺伝子に由来する確率である。

10)選抜強度は(選抜差)を表型標準偏差で割って求めることができる。

【9】次の文のなかで間違った記述をしている文の番号を全てあげなさい。 (10点)

O 1. 遺伝子クローニングにおけるブルーホワイトセレクションは、DNA断片が正しく組み込まれたプラスミドベクターによって大腸菌が形質転換されたかどうかを調べる方法である。

X 2. ハイブリダイゼーションの検出方法としては化学発光、化学蛍光、化学発色、RIがあり、ターゲットとする核酸の状態に応じて、サザン、ノーザン、ウエスタン、ドットブロット、コロニーなどのハイブリダイゼーション手法が開発されている。

O 3.遺伝子重複が起きると、2つの相同遺伝子のうちのどちらかは、機能的制約を離れて、新しい機能を持った遺伝子に進化できる。

O 4 たんぱく質の中には、固有の機能を果たす上で重要な部位があり、このような部位は種を超えて保存されることが多い。

X 5.アニマルモデルであっても形質データを持たない牛の育種価は評価できない。

X 6.アニマルモデルを使用すれば、どんなに偏った交配であっても、正確に育種価を推定できる。

O 7.BLUP法のモデルにおいて、1乳期の記録ではなく、毎月の記録をyに設定するモデルをテストデイモデルという。

O 8. LWD豚は日本のスーパー店頭で販売されている豚肉の90%以上を占めている。

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