佐賀大学農学部応用生物科学科 動物遺伝育種学 講義テキスト 科目ホームページ
種畜の遺伝能力評価法
育種価とは
ある個体のある形質における、相加的遺伝子型値。遺伝のなかで両親から
1/2ずつ確実に子供に伝わる部分。
種畜評価の歴史
昔は毛色や体型などの質的形質を中心に選抜して品種を確立していきました。
その後、科学的な考え方が広まるとともに、生産形質のデータをもとに選抜する「検定」という考え方が普及していきます。
その中で、ニワトリやブタを中心とした選抜指数法、乳牛を中心とした同期比較法(同群比較法)が考案されていきます。
C.R.Hendersonは早い時期から、環境要因と遺伝要因を同時に考慮して線形モデルで評価する方法を考えていましたが、
彼の方法がBLUP法として普及するのは、コンピュータ能力の増大によってBLUPの計算が行えるようになった1970年台以降になります。
- 選抜指数
- 複数の形質を考慮した総合育種価を推定する方法
- 同期比較法
- 現場後代検定において、同一年次、同一季節に検定を受けた牛どうしで比較して環境要因を取り除く方法。
検定の種類
- 直接検定
- 自分自身の記録(形質値)を用いて検定する方法。今でも肉牛の1次選抜の方法として用いられている。
- 後代検定
- 息子や娘の記録を用いて検定する方法。種雄牛の泌乳形質や肉質などを検定するには、子牛を生産させて、その子牛のデータから種雄牛の遺伝能力を評価する。
- ステーション検定
- ステーション(検定場)で検定する方式。飼料などの飼養管理法などを統一できる利点があるが、公的機関が予算を出して検定場を維持する必要がある。
- 現場検定(フィールド検定)
- (農家や枝肉市場などから収集したデータ)を用いて検定する方式。農家の実際の飼養管理に即した評価が行える利点があるが、ある程度の頭数を確保しないと正確な評価は困難である。
BLUP法の優れた点
- 育種価を予測できる
- 年次や季節などの環境要因を補正できる
- 血統情報や遺伝分散、遺伝共分散などを利用することで、自身の記録を持たない個体の育種価推定が可能になる
- 血縁個体のデータが少ない場合にも、異常な値になりにくい
- ベイズ統計学などの現代統計学の枠組をそのまま利用できる
BLUP法の欠点
- 特にアニマルモデルの場合、膨大な計算量を必要とする。
- アニマルモデルにおける雌牛の評価値の信頼度が低い。
- 基準種雄牛を配置したり、差重供用を徹底しないと、環境要因と遺伝効果の交絡が起こりやすい
BLUP法のモデル
- サイアモデル
- 変量効果は種雄牛だけ。種雄牛の変量効果は平均ゼロで、多変量正規分布に従うと仮定する。種雄牛間の分散共分散行列には通常、種雄牛間の血縁関係も考慮する。
- MGSモデル
- 変量効果は種雄牛と母方祖父牛(Maternal Grand Sire)
- アニマルモデル
- データを持つ持たないにかかわらず、全ての血縁個体を1つの変量効果とする
- リピータビリティモデル
- 1個体について複数の記録を使用する。恒久環境効果も変量効果とする必要がある。
- 多形質モデル
- 複数の形質を同時に考慮するモデル。
- テストデイモデル
- 毎月の泌乳データを用いて乳量などを評価するモデル。各雌牛の泌乳曲線の違いを考慮できるという利点があるが、膨大な計算量が必要となる。
参考図書
佐々木義之 著、「動物の遺伝と育種」、朝倉書店
研究紹介 種畜の遺伝能力評価法
最終更新年月日 2009年7月21日
佐賀大学 農学部 動物資源開発学分野 和田研究室
ywada@cc.saga-u.ac.jp