佐賀大学農学部応用生物科学科 動物遺伝育種学 講義テキスト 科目ホームページ
連鎖と組換え
ニワトリにおける連鎖遺伝子
同一染色体上の2つの遺伝子は独立の法則に従わないことが多い。
この現象を連鎖という。
たとえば鶏の脚の形状と冠の形状について次の遺伝子が知られている。
- C 葡伏鶏(短脚、ホモ接合体は致死)
- c 正常脚
- R バラ冠
- r 単冠
RcrC x rcrc の交配を行うと、
Rcrcが1069個体、rCrcが1104個体、RCrcが6個体、rcrcが4個体であった。
このようにほとんどの子供が親の遺伝子の組み合わせを持っている。
この時、CとRは強く連鎖しているという。
親の遺伝子の組み合わせを非組換え型、それ以外の組み合わせを組換え型と呼ぶ。
組換えが起こるのは、親であるヘテロ接合体の染色体で部分的な交換が起きているからで、この交換のことを交叉(乗換え)と呼ぶ。
遺伝連鎖地図の作成
交叉は染色体上で近いほど頻度が少なく、遠くなるほど頻度が高くなることが知られている。
この現象を利用して、染色体の上に遺伝子座の地図を作ることができる。
たとえば、ニワトリの褐色眼(Br)の遺伝子座と淡色うぶ毛(Li)の遺伝子座間では10%の組換えが起こる。
褐色眼と銀色羽(S)の間では組換え率は26%、淡色うぶ毛と銀色羽の間では16%である。
このデータから、3つの遺伝子座は褐色眼、淡色うぶ毛、銀色羽の順で同一染色体上に並んでいることがわかる。
このようにして作成した地図を遺伝連鎖地図と呼ぶ。
組換え率と地図距離との関係
交叉は染色体上で近いほど頻度が少なく、遠くなるほど頻度が高くなることが知られているが、
その関係は必ずしも比例関係ではない。
完全に独立な2つの遺伝子座間の組換え率は50%であり、
染色体上の同じ場所にある2つの遺伝子は完全に連鎖し、その組換え率は0%である。
また、染色体上での距離が離れるほど、多重交叉の可能性も高くなり、
実際の染色体上での距離は比例関係よりも長くなることが予想される。
そこでKosambiは組換え率から遺伝連鎖地図上での距離を求める公式を作成した。
その式は y = tanh 2x / 2 である。
ここで、100yは組換え率(%)、100xは地図距離(cM)である。
連鎖地図作成のためのマーカー
実際に連鎖地図を作製する場合には、F2家系やバッククロス家系の多数の個体について各遺伝子座の遺伝子型を決定する必要があります。
連鎖地図作製のための遺伝子座(マーカー)としては現在ではマイクロサテライトやSNPs(1塩基多型)がよく利用されています。
表現型
毛色や奇形のような質的形質で、単一の遺伝子座に支配されている形質については、
その表現型をもちいて遺伝子型を決定することができます。
利用可能なマーカー数が少ないのが欠点です。
マイクロサテライト
CGCGCGCGのような2あるいは3塩基の繰り返し配列をマイクロサテライトと呼びます。
マイクロサテライトの繰り返し回数はDNAの複製時に複製間違いを起こしやすく、
繰り返し回数の多型が多く見受けられます。
そこで、マイクロサテライトをはさむようにプライマーを設計し、PCRをして、
そのPCR産物を電気泳動すれば、PCR産物の長さの違いとして遺伝子型をタイピングすることが可能です。
現在では、キャピラリー型の自動シーケンサーを用いてマイクロサテライトのタイピングをするのが一般的です。
この方法ですと一度に大量のタイピングが可能となり、マウスなどの連鎖地図作製に威力を発揮しました。
SNPs(1塩基多型)
マイクロサテライトはゲノム全域にかなり多量に存在していますが、
特定の遺伝子の近傍に必ずマイクロサテライトが存在しているわけではありません。
特定の遺伝子の近傍にマーカーを設定したい場合は、イントロンなどのゲノム領域上の1塩基多型を利用します。
SNPsのタイピングには自動シーケンサーの他、いろいろな機械を利用した方法が提案されています。
SNPsは特定の遺伝子の近傍にマーカーを設定できることから、遺伝病の原因遺伝子の解明や、
その他の一般疾患の原因究明などに利用されることが期待されています。
交叉の意義
もし交叉が起こらなければ、2つの連鎖した遺伝子はずっと連鎖したままになる。
交叉が起こることで、
同一染色体上の遺伝子についても異なる染色体上にある遺伝子と同様に組換えを起こすことができる。
これは、遺伝子の組み合わせの数を多くして、多様な表現型をとることにより、
種としての生存率を高めるのに役立っていると考えられる。
また、交叉があることで、連鎖している2つの遺伝子についても、
交配によって望む組合せを得られるわけで、
育種改良の立場からも交叉は重要である。
参考図書
J.F.クロー著、「クロー 遺伝学概説」、培風館
最終更新年月日 2009年7月21日
佐賀大学 農学部 動物資源開発学分野 和田研究室
ywada@cc.saga-u.ac.jp