佐賀大学農学部応用生物科学科 動物遺伝育種学 講義テキスト  科目ホームページ

確率と家系分析

確率の定義

n個の確からしさの等しい場合のうちで、Aという事象が起こる場合がm個あるとすると、その事象の確率は P(A) = m/n である。

確率の和の法則

AまたはBの起こる確率は、Aの起こる確率とBの起こる確率の和からAとBが同時に起こる確率を引いたものである。

すなわち、P(AまたはB) = P(A) + P(B) - P(AB)

排反事象とは同時には起こらない事象の組のこと。 従って、1組の排反事象については、そのうちのどちらかが起こる確率は各々が起こる確率の和である。

条件付き確率

事象Aが起きたという条件のもとでの事象Bの確率をP(B/A)と書いて、 条件付き確率と呼ぶ。

積の法則

Aが起き、続いてBが起こる確率は、Aの確率と、Aが起きたという条件のもとにBが起きる条件付き確率の積になる。

すなわち、P(AおよびB) = P(A)・P(B/A)

最初の事象の生起が第2の事象の生起の確率に影響を与えない場合、2つの事象は独立であるという。 その場合、P(B/A)=P(B)であり、2つの独立事象が両方とも起こる確率は、個々の確率の積である。 3つ以上の独立事象についても同様に積となる。

独立事象の反復試行

一定の確率で起こる事象の反復試行については次の規則が成り立つ。

事象Aが起こる確率がpで事象Aが起こらない確率がqである時、 n回の試行においてAが全体としてs回起こり、Aがt回起こらない確率は P =( n! ps qt )/(s!t!) である。

ここで、s+t=n, p+q=1である。

二項式 (p+q)nを展開すると、その各項は上にあげた確率の表現と同じになる。 従って、反復試行の確率分布を二項分布と呼ぶ。

家系分析

人間や牛などでは家系図を分析することによって、種々の遺伝様式を知ることが有用である。 単一遺伝子による遺伝疾患の場合には、たいてい家系分析によって遺伝様式を特定することができる。
常染色体優性
正常個体と疾患個体との間の子供では、正常個体と疾患個体の比が1:1になる。
常染色体劣性
1つの家系図から判断するのは困難。 疾患個体の両親が近親婚である場合や大多数の疾患個体の両親が正常である場合などは常染色体劣性が疑われる。
伴性劣性(X染色体上の劣性遺伝子)
疾患個体の雄雌比が雄側に極端に偏っている。
Y染色体遺伝
雄個体のみに現れる。
伴性優性(X染色体上の優性遺伝子)
正常な雌個体と疾患を持つ雄個体の娘が疾患個体となる。

遺伝的予測とベイズの法則

遺伝様式と親世代の遺伝子型がわかれば後代に遺伝疾患などがでる確率を計算することができる。 ただし、良く似た表現型でありながら異なる遺伝子に起因する場合もあり、 家系分析による方法は遺伝子工学的手法での裏付けが必要である。

伴性遺伝や常染色体劣性遺伝の場合、疾患遺伝子をヘテロで持っているかどうかは家系分析からだけではわからない場合が多い。 この場合、通常の方法で疾患遺伝子をヘテロで持つ確率を計算することができる。 ただし、全きょうだいの全てが正常個体であるというような情報を用いることによって、 疾患遺伝子をヘテロで持っているかどうかの予測精度をあげることができる。 このような統計手法をベイズ統計学と呼び、この考え方を表した式をベイズの公式と呼ぶ。

ベイズの公式は 事後の勝ち目=事前の勝ち目x尤度比 であらわされる。

具体的には、NnとNNの遺伝子型の確率(事前確率と呼ぶ)がともに1/2であっても、 その子供達が全部正常であれば、Nnの事後の勝ち目は大幅に減少する。 これは、「子供達が全部正常」という情報を考慮すれば、 親が劣性のヘテロ個体である可能性が低いと考えることに相当する。 このような考え方を取れば、親の遺伝子型を正しく予測する確率が高まる。

参考図書

J.F.クロー著、「クロー 遺伝学概説」、培風館

最終更新年月日 2009年7月21日

佐賀大学 農学部 動物資源開発学分野 和田研究室

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