佐賀大学農学部応用生物科学科 動物遺伝育種学 講義テキスト  科目ホームページ

わが国における牛、豚、鶏の育種体制

乳牛における育種体制

牛群検定と現場後代検定

検定員が月1回、酪農家を訪問して、各搾乳牛の乳量を朝夕2回検定する。 また、サンプルを持ち帰って乳脂率、乳タンパク質率、無脂乳固形分率を測定する。

これらのデータは(社)家畜改良事業団に送られ、各雌牛の1乳期の乳量などの形質値がまとめられる。 乳期途中のものは拡張係数を用いて305日補正乳量が求められる。

これらの泌乳成績と(社)日本ホルスタイン登録協会からの血統データをもとに、 (独)家畜改良センターにおいてアニマルモデルBLUP法を用いて種雄牛および雌牛の育種価が推定される。

種雄牛生産

肉牛における育種体制

ステーション検定

検定場で同一時期に同一条件で検定することによって、環境効果をできるだけ一定にして、 遺伝的な能力を比較できるようにしている。

わが国の黒毛和種などでは県単位で直接検定、間接検定が実施されている。

検定方法は各品種の登録協会((社)全国和牛登録協会など)が中心となって決定している。

直接検定
両親の育種価などで選んだ若い雄牛を、検定場(県の畜産試験場など)に集めて一定期間、 同一の飼養条件で飼育し、 DGや飼料要求率などを測定し、発育能力などを見る。通常は上位1/3を選抜し、次の間接検定にかける。
間接検定(後代検定)
直接検定合格牛(候補種雄牛)から精液を採取し、自県および他県の雌牛に種付けして、息牛を生産し、 その息牛を去勢後、検定場に集めて一定期間、肥育する。

肥育終了後、屠殺解体して、枝肉重量、枝肉歩留まり、脂肪交雑、ロース芯断面積などの枝肉成績を測定する。

発育成績と枝肉成績などを総合的に判断して、上位1/3を選抜し、 検定済み種雄牛としてその精液を広く利用する。

フィールド検定(現場後代検定)

豚における育種体制

系統造成
豚や鶏では、閉鎖集団の中で6?8世代選抜して平均血縁係数の比較的高い系統を作出し、 異なる品種の系統間の交配によって、コマーシャル豚やコマーシャル鶏を生産するのが一般的である。

系統間交雑のメリットは、(1)雑種強勢を利用できる、(2)複数の品種を利用することによって補完しあえる、 (3)雑種豚(鶏)の遺伝的な斉一性が高まる、などが重要である。

わが国の豚では、ランドレース(L)の雌に大ヨークシャー(W)の雄をかけて、 そのF1の雌にデュロック(D)の雄をかける3元交雑豚(LWD)が多い。

系統造成は官系(雄系はおもに(独)家畜改良センター、全農、雌系はおもに各県の畜産試験場など)と、 商系(一般企業)で別々に実施されており、それぞれ肥育素豚の供給から豚肉の流通、販売までのインテグレーションを目指している。

鶏における育種体制

鶏も豚と同じく、系統造成と系統間交雑によりコマーシャル鶏は生産されている。 鶏の場合は4元交雑が比較的多い。

官系のシェアは非常に小さい。 商系の中でも、大企業と中小企業の企業間格差が目だってきている。

在来豚と在来鶏

中小の企業体や地方の単協、地域の篤農家のレベルでは、大規模養豚や大規模養鶏に対抗する手段として、 在来豚や在来鶏の利用による差別化の動きがある。

比内鶏に代表される地鶏や、烏骨鶏のような特殊鶏、梅山豚や金華豚などの中国在来豚の利用が試みられている。

これらの品種は生産性が極端に落ちるために、コマーシャル品種などとの交雑種がおもに利用されているが、 価格が高い、品質が一定しない、生産が一定しない、全国規模での販路がない、偽ブランドの肉や卵が出回っているなどの多くの問題点をかかえている。

参考図書

佐々木義之 著、「動物の遺伝と育種」、朝倉書店

動物遺伝育種シンポジウム組織委員会 編、「家畜ゲノム解析と新たな家畜育種戦略」、シュープリンガーフェアラーク

最終更新年月日 2009年7月21日

佐賀大学 農学部 動物資源開発学分野 和田研究室

ywada@cc.saga-u.ac.jp