佐賀大学農学部 応用生物科学科 動物資源開発学分野 和田研究室
動物資源開発学 -畜産の未来を探る-
種畜評価とわが国の家畜育種体制
遺伝と環境
- 表現型値 実際に測定できる形質の値(例 毛色、体重、産卵率、肉色)
- 表現型値を決める要因 <- 遺伝子型値+環境要因
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- 質的な形質(豚の毛色やエンドウ豆の色など)の多くは環境要因に影響されない
- 量的な形質(体重や産卵率など)は環境要因に影響される
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- 量的形質を育種改良するには、遺伝子型値をできるだけ正確に推定する必要がある
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- 表型分散(表現型値のばらつき)に対する遺伝分散の割合を遺伝率と呼ぶ
- 遺伝率が高い形質ほど改良速度を速くできる
家畜育種の基本手法
- 検定 各形質の遺伝能力(遺伝子型値、育種価)の推定
- 選抜 総合的な遺伝能力の優れた種畜を選ぶ
- 交配 選抜された種畜どうしを交配する
- 子の世代の育成
乳牛における育種体制
わが国では、現場後代検定成績にもとづく、変量回帰検定日モデルBLUP法を用いて泌乳形質の遺伝能力評価を行っている。
この評価値(育種価推定値)をもとに種畜の選抜をおこなっている。
牛群検定(現場後代検定)
- 酪農家サイドの泌乳データ(乳量、乳脂率、乳タンパク質率、無脂乳固形分率)を収集する事業。
- 1か月に1回、検定員が酪農家を訪問してデータを収集する。
- データは(社)家畜改良事業団がとりまとめる。
- 農家にとっては自分の牛群の状態を把握することができる。
- 種畜の遺伝能力評価のための基礎データとなる
全国規模の変量回帰検定日モデルBLUP法(泌乳形質)による種畜の遺伝能力評価
- (独)家畜改良センターが乳牛の全国規模の遺伝能力評価を担当
- 10年以上の牛群検定データと血統データを用いる
- 泌乳形質については変量回帰検定日モデルBLUP法を使用
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- 海外種雄牛についてはインターブルによるMACE法で評価
- 評価値は冊子およびインターネットで公表
後代検定事業による種雄牛の作出
- 各民間人工授精事業体及び国が選定あるいは計画的に交配し生産した若雄牛をエントリー
- 候補種雄牛の精液は、全国の牛群検定参加農家で飼われている雌牛にランダムに交配(候補種雄牛生産のための計画交配)
- 生まれた娘牛は育成され、牛群検定で泌乳成績が収集される
- 発表された評価成績により候補種雄牛の選抜が行われ、選抜されたものだけが後代検定済み種雄牛として一般に広く利用される
わが国で作出された種雄牛はインターブルにおいて米国に次ぐ高い評価を受けています
(プレスリリース)
肉牛における育種体制
- 和牛(肉専用種)は4品種 黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種
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- 黒毛和種はおもに道府県単位で育種されている
- 直接検定(若雄牛の発育)で1次選抜し、フィールド検定(肥育成績、枝肉成績)で2次選抜している。
- フィールド検定ではアニマルモデルBLUP法で種畜の遺伝能力評価を行っている。
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- 道府県単位の育種なので、繁殖集団が小さい
- 全国的な取りまとめは(社)全国和牛登録協会と家畜改良センターが行っているが、
乳牛と比較して全国規模での種畜評価の正確度が低い(他県の牛と比較できない)
豚における育種体制
コマーシャルベースでは交雑利用(LWD)が主流
- 系統造成 <- 遺伝的斉一性 <- 飼育頭数の大規模化
- 系統間交雑による雑種強勢(ヘテローシス)の利用
LWD豚のシェア90%以上
- L ランドレース 1腹産仔数、哺育能力
- W 大ヨークシャー 発育
- D デュロック 肉質、強健性
商系と官系(農林水産省、家畜改良センター、全農、各道県試験場)で別個に系統造成
- 海外の種畜業者のシェア拡大
- 系統間の組み合わせ検定
一部で「薩摩の黒豚」、「中ヨークシャー」、「TOKYO X」などの銘柄豚が利用されている
鶏の育種
海外の種鶏業者主体の育種
- 系統造成
- レイヤー 白色レグホン、ロードアイランドレッドなど
- ブロイラー 白色ロックなど
- 3,4元交雑
- 詳細は不明 <- 企業秘密
地域起こしとしての在来鶏の利用(比内鶏、軍鶏、烏骨鶏)
- 地鶏の定義:在来鶏の血液割合が50%以上
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- 名古屋コーチン(名古屋種)<- バフコーチンx在来鶏
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- 豊のしゃも シャモ(軍鶏)x九州ロード
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- 比内地鶏 比内鶏(天然記念物)xロードアイランドレッド
- さつま地鶏 薩摩鶏(天然記念物)xロードアイランドレッド
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- おおいた冠地鶏 (ロードアイランドレッドx九州ロード)x(白色ロックxロードアイランドレッドx烏骨鶏)
最終更新年月日 2011年11月28日
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