2019年度 動物遺伝育種学 試験問題 解答例

【1】ネコにおいて遺伝子がBBのものは毛が黒で、Bbは三毛猫で、bbは黄色になる。この遺伝子はX染色体上にあることが知られている。三毛の雌と黒色の雄を交配すると、どのような色のネコがどのような割合で生まれてくるか説明しなさい。(10)

  三毛猫の雌はXB Xb であり、雄の黒猫はXB Y であるので、子猫はXB XB(黒猫 雌)、Xb XB(三毛猫 雌)、XB Y(黒猫 雄)、Xb Y(黄猫 雄)が1:1:1:1で生まれることになる。

【2】マイクロサテライトとはどのようなものか、また、どのように利用されるのかについて詳しく説明しなさい。(10)

 マイクロサテライトは2-4塩基の繰り返し配列で、脊椎動物のゲノム全体に豊富に存在しているので、ゲノム全体に対する連鎖解析をするのに適している。マイクロサテライトは多型性が高いので、連鎖解析や親子鑑定において使用可能なマーカー数が多く確保できるとともに、情報量も多くなる。また、自動シーケンサーを用いたハイスループットなジェノタイピングが可能である。

【3】人為選抜において選抜限界が生じる原因について詳しく説明しなさい。(10点)

選抜限界が生じる原因として考えられるのは、1.各遺伝子座において遺伝子が固定された、2.体が大きくなりすぎて繁殖が困難になるなど、自然淘汰と人為選抜が拮抗している、3.選抜形質間で負の遺伝相関がある、4、免疫関係遺伝子のホモ化により、抗病性や育成率が低下している、などである。

【4】表現型レベルではダーウインの自然選択説が、分子レベルでは木村の中立説が正しいように見えるが、この矛盾の原因について詳しく考察しなさい。(10)

 分子レベルでは木村の中立説が提唱するように遺伝変異の圧倒的多数は個体の生存に中立な変異であるが、非常にわずかの割合だが個体の生存を高める遺伝変異が生ずることがある。その少数の遺伝変異が、大きな表現型の変化をもたらすことがあり、ダーウインの自然選択説が正しいように見えるのである。また、遺伝子重複によって、機能的制約がかからない新規遺伝子が誕生すれば、その新規遺伝子については、個体の生存を高める方向へ進化する確率が通常よりは高まる。

【5】遺伝率について詳しく説明しなさい。(10点)

 遺伝分散を表型分散で割ったものが広義の遺伝率で、相加的遺伝分散を表型分散で割ったものが狭義の遺伝率である。遺伝率の高い形質ほど選抜育種の効率が高くなる。遺伝率の比較的高い形質は肉質や発育、乳量などであり、受胎率、産仔数などの繁殖形質や抗病性、育成率などの形質は遺伝率が低い。形質の測定誤差を抑えることで、遺伝率を上げて、選抜の効率を高めることができる。

【6】わが国における乳牛育種と肉牛育種の相違点について詳しく説明しなさい。(10点)

  日本の乳牛ではホルスタイン種が圧倒的なシェアを持っており、わが国ではホルスタインに種について全国一律の現場後代検定による育種改良を行っている。能力検定成績の収集には牛群検定を利用し、ホルスタイン登録協会が収集した血統記録とともに(独)家畜改良センターにおいて各形質の育種価推定値が算出されている。種雄牛の作出・導入については各種法人を含む民間が行っている。また、日本としてインターブルが主催する国際評価に参加している。

  一方、日本の肉牛では黒毛和種が大きなシェアを持っているが産地間競争が激しく、基本的に産地の各道府県が個別に直接検定と現場後代検定にもとづく育種改良を行っている。検定方式は和牛登録協会によって統一されているが、産地を越えて優秀な種雄牛が使用されることは稀であり、育種規模が小さく近交退化の危険性をはらんでいる。

【7】次世代シーケンシング手法を応用したゲノム解析手法を1つあげて詳しく説明しなさい。(10点)

 (1) DNA-Seq   同一種や同一品種の複数個体について全ゲノムシーケンシングを行うことでゲノム上の欠失領域や逆位領域、1塩基置換などを網羅的に検出する手法。各個人の全ゲノムシーケンスが得られるようになれば、塩基レベルでのテーラーメイド医療が可能になるかもしれない。

 (2) RNA-Seq    特定の組織や細胞で発現している全mRNAを逆転写し、フルシーケンスすることで、発現している全てのmRNAの種類と頻度を把握できるので、各遺伝子の全バリアントについて検討することができる。

 (3) 16S rRNA菌相解析  腸内容物や糞便、土壌などからDNAを抽出し、細菌に特異的な16S rRNA遺伝子領域にプライマーを設定し、PCRを行い、全PCR産物について次世代シーケンシングを行う。得られた配列をblastにかけ、

 (4) RAD-Seq     各個体のゲノムDNAを制限酵素で切断し、切断端から150bp程度を次世代シーケンサーでシーケンスし、SNPやIn/Delを検出し、それらのジェノタイピングを行い、形質との間でゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、当該形質に関連する領域を探索する手法。

【8】(  )の中に正しい用語を書き入れなさい。(20点)

 1)染色体DNAは(mRNA)に転写され、核外に移行し、たんぱく質に(翻訳)される。

2)(2本鎖DNA)の特定の塩基配列を認識してDNAを切断する酵素のことを制限酵素と呼ぶ。

 3)遺伝疾患個体の両親が(近親婚)である場合や大多数の疾患個体の両親が(正常)である場合などは常染色体劣性遺伝が疑われる。

4)(交叉)は染色体上で近いほど頻度が少なく、遠くなるほど頻度が高くなることが知られている。この現象を利用して遺伝子座の地図を作ることができる。この地図を(遺伝連鎖地図)と呼ぶ。

 5)遺伝子をコードする塩基配列に欠失や挿入などが起こって、遺伝子としての機能を失ったものを(偽遺伝子)と呼ぶ。 

6)雌雄同数で集団の大きさが世代ごとに変化しない理想的な集団に換算した場合の集団の大きさを(集団の有効な大きさ)と呼ぶ。

7)(近交係数)とは、1つの個体の2つの相同遺伝子が共通祖先の同一遺伝子に由来する確率である。

【9】次の文のなかで間違った記述をしている文の番号を全てあげなさい。 (10点)

O 1 たんぱく質の中には、固有の機能を果たす上で重要な部位があり、このような部位は種を超えて保存されることが多い。

O 2. ハイブリダイゼーションの検出方法としては化学発光、化学蛍光、化学発色、RIがあり、ターゲットとする核酸の状態に応じて、サザン、ノーザン、ドットブロット、コロニーなどのハイブリダイゼーション手法が開発されている。

O 3. 遺伝子クローニングにおけるブルーホワイトセレクションは、DNA断片が正しく組み込まれたプラスミドベクターによって大腸菌が形質転換されたかどうかを調べる方法である。

O 4.遺伝子重複が起きると、2つの相同遺伝子のうちのどちらかは、機能的制約を離れて、新しい機能を持った遺伝子に進化できる。

X 5.アニマルモデルを使用すれば、どんなに偏った交配であっても、正確に育種価を推定できる。

X 6.アニマルモデルであっても形質データを持たない牛の育種価は評価できない。

O 7.BLUP法のモデルにおいて、1乳期の記録ではなく、毎月の記録をyに設定するモデルをテストデイモデルという。

X 8. LWS豚は日本のスーパーの店頭で販売されている豚肉の90%以上を占めている。

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